4年の月日とは当たり前だけども長い。人が、社会が、環境が、気持ちが、そして誓いがうつろうには十分な期間である。自分も含めて難民すべての状況も、あの、最も熱かった2005年からは少なからず変わっていた。

まず、不覚にもメンバーに全員彼女ができた。俺を除いて。

別名「集団自殺」と言われる我がバンドにおいて、よもや現世への未練も断ち切らんとかかる行動に及ぶ阿呆がいた事には驚きを超えて勃起してしまいましたよ。人並みにガールフレンドが欲しい、というそんな気持ちがこいつらにあったとは!というかガールフレンドが欲しいという気持ちを持つことが人並みのことだと勘違いしているとしたら、俺はリーダーとして、兄として、こいつらの間違いを正すべく血の涙を以って打擲しなくてはなるまい。女はもれなく女郎だ、野蛭だ、インキュバスだ。陰急バスだ、と間違えて打ちそうになるほど俺は熱くライブで訴えているというのに!彼らが女に良いように財を、気力を吸い取られ、ボロボロになって余力を失った段になって放擲され、ショック状態のまま仕事でミスを犯して失職して、家賃光熱費が払えずに住を失い、炊き出しを並び、凍傷を防ぐべく靴の上からガムテープをグルグル巻きにして足指を暖め、まつげも凍る寒い冬を路傍で過ごす傍らで、時流をみて相手を乗り換えた元カノが、暖の篭った部屋で情夫の陰茎を使いすぎて弛緩した膣へと誘うという状況にならないように俺が目を光らせておかなくては!そうなってからでは遅すぎる!

そんな俺の親心も届かずに、女ができれば蔑ろになるのは決まって友情、それも男の。つまり。

あーもしもし、あ、俺、うん、あ、あけましてー、どもー。イヤ年始からさ急な話なんだけどさ、タイいかねえ?うん、そう、バンコク。いやいや、島はなし、バンコクオンリーでさ。ツアーなんだけどホテル込み全コミ、コミコミのコミで4万5千円なんだよ。二度とないよー?え?休み?とれるべ?2営業日だぜ?・・うん・・うん・・あー・・でも、まあ、いや、そこは交渉してさ、え?金?金はあんたあるでしょうがよ、たんまりと。ほうほう、ああ、ああ・・・そう。いやいや、いいって!気にすんなって!仕方ないよね!俺も彼女いたらそう言うと思うよ?え?関係ない?いいっていいて俺もそういう奴だったからさ。女がいたときの俺って、ほんとにイヤな奴だったと思うよ。反省しているさ。まあ確かに、パートナーが俺じゃ女にしてみればねえ、旅先でチンポもアナルも心配だわな?いやいやわかってる!冗談冗談。今回は金がねえ、とか仕事が休めねえ、ってことで旅に一緒に行けないのはまったくタイミングだよね、急だったからね。彼女は関係ないよね、ね。気を遣ってるってことは万に一つだってないよね。俺は信じているぜ。だから今度は九月頃にでもさ、前もって、ね。そんとき女がゴネたら俺はぶっ殺すけどね。じゃ、また電話するから、あ、ううんいいよいいよ、じゃ。

こうしてタグ、パク、テケの三人はいずれも「仕事の休みがとれず、また、急事により金子を準備すること能わず」との、それ以外の何者でもなく第三者の意見によって判断を狂わされた事実もない避けようの無い致し方ない事情により早くも参加を拒否されてしまったのであった。誓いフォーエヴァー。

さて、とはいえ先ほどメンバー全員に彼女、といったものの上記に当てはまらない唯一の男が実はまだ残っていた。メンドクセェことは大嫌い、の八雲は当然言及するまでもなく相変わらず女はつくっていない。ので全員の中に入れていない。あそこで訴えたのは「女が欲しいと思っているメンバー全員」の意だからだ。しかし今回の旅には彼は果たしてどの程度積極的なのだろうか?なぜなら彼の月給は現在タイの屋台のおばちゃん並み。ナイトバザールでパチモンのAPEのTシャツを300枚以上売ってやっと届くか少し超えるくらいのものだ。そんな地と汗の結晶をほぼ全額つぎ込むとすれば、俺よりも何倍も覚悟を持って臨む必要があるだろう。俺は慎重に会話を進めた。

「もしもし、あ、八雲さん、どうも。ぶしつけですがタイに行きたいですか?」

「唐突もはなはだしいね・・まあ・・行きたいよ」

「じゃ、行きませんか?」

「・・俺、最近昼番になったからさらに時給が下がったんだよね・・。」

「・・・・」

「こないださ、タカシ―ノの家でザ・ノンフィクションってドキュメンタリー見たじゃ

ない?」

「ええ。」

「あのドキュメンタリーでさ、養護学校卒業の知育の成長が人よりも少しだけ遅い人がクッキー工場で働いて、初任給を親に渡すクライマックスのシーンがあったじゃない?」

「おお!生意気に確か11ま・・」

「勝つには勝ったけど・・ギリギリ・・だったんだよね、給与額。」

「・・何馬身差くらいですか?」

「・・ハナ差・・かな。」

健常者のくせに・・という言葉を俺はのど仏の奥へそっとしまいこみ、深呼吸をして再び会話に戻った。

 「わかりました、お土産なにがいいですか?」

 「じゃあ、実用的なネックレスを・・」

そういって八雲は最初から諦めていたように電話を切った。後に残ったのは実用的なネックレス、という意味不明の単語のみだった。実用的・・栓抜きにチェーンでもくくりつければいいのだろうか?意味がわからない。

 最終候補者は朽犬しかいなかった。

 しかし朽犬とは居て居ないものなのだ。生きているが死んだも同然の人。いや、死んでいるのにまだ現世に残っている成仏できない自爆霊のようなものだ。

 朽犬は2005年のタイツアー帰国後に結婚した。つまりあれが今生での俺たちの最後の旅だった。

現在では娘を抱え、日々家庭を安んじるべく労働を行っている。命はすでに次の世代へ受け継がれ、彼の現世それ自体は轍となって道を示すに過ぎぬものとなった。俺は「キン肉マン」でウルフマンが己のみぞおちに手を突っ込み、カラーボール状のものを取り出すや否やスクリーン目掛けてそれを放り投げ、「俺の命をやるぞォォーーッ!」と絶叫するシーンが強烈に脳裏に浮かんだ。誓いフォーエヴァー。

仕事、家庭、金欠。

あれから4年。俺たちは俺たちなりに人生を努力してきたつもりだ。

でもなんだろう、あのころに比べて遥かに不自由が増してきている。それでじゃあ翻って、生活が向上したのかというと決してそのようなことは無く、まあ、PS3を買ったとか、寝る相手ができたとか、子供という目標ができた、ということは向上といえる気もするが、本質的に、生きていれば生きているほどにハッピー、という風には、これ、世の中のつくりからして成っていないのだなと直感したことがとっても怖くなった。つまりは、生きているというだけで歳をとり、歳をとるだけ世間から、社会から、世界からの要求が高度になっていくのがつまりはこの世の成り立ちなのであって、顕著な例で言えば、小さいころは仲良しチャイムがなっておうちに帰ってあったかい布団で眠るんだろな、というのが当たり前だったのにもかかわらず、今度はそいつが30歳過ぎてなお実家暮らし、というとそれだけで独立自立していない奴、経済力のない奴、いつまで親元で・・と、かつて当たり前だった事に対して相手の見る目が変わる。しかし本人にとっては生まれてからずっとそうしていたわけで、あのころと変わらずにでんでんでんぐり返ってバイバイバイという事に、なんの遠慮や後ろめたさがあるというのか、不思議でならない。そうしたずれが人間関係を築くにあたり、大きな差し障りとなることには間違いが無い。

10代のデートはマックで割り勘、でも30代になったら高級なお店でコースを食べたい、シャンパンが飲みたい。10代はバイトで軽作業でいいよ、でも30代になったら部署をまとめる仕事、人の上にたって指示指導ができるようになってて当たり前・・と年齢にあわせたプレッシャー、要求はとどまることもなく、これは生きている限り負債のように増えて続くのである。

だったら早いとこ損失計算して、早めに人生幕にしてしまったほうが長く苦しんだり悩んだりしないだけ得な気もするのだが、そうも出来ないのはやっぱり人間ぼくらはみんないきている、いきているからつらいんだ、死ぬのが怖いんですよ。

生きてて辛い。

死ぬのが怖い。

だったらどうすればいいのか?ひとつは逃げ道として一時的な魂の浄化を図ることではないか?カタルシスとかいうやつを己の精神に与えてやれば、つまるところイヤーな汚れもすっきり落ちて魂は再生するんじゃないのかしら?まあ、すごいわ!パワー酵素のちから。

ところが今回皆様方ときたら、そうしたところにお気づきになられずに、現状維持を目算するあまり、真の意味での長期的展望を見落としてしまっていることがとっても悲しい。今の生活からたとえば1週間ほど抜け出すことで先1年が救われる。リフレッシュ休暇。ぼくたちはモノじゃないぞ!そんな思いでお声がけを差し上げたのに・・。決して二人一部屋のツアーなので、相棒ができないとホテル代があがって負担が増えるなあ、クソ!そんなん価格2万も上がったら行かれないじゃないですか、とか、そういう風には思ってなくて、みんなの健康とかピースオブマインドを憂慮してのことなんだよということをわかって欲しい。

そんな失意に落ち込む俺の手元で再び携帯がなった、果たしてタグッツォからであった。

「・・なんだよ、お前いかねえんだろ?」

「・・ワタシハタグッツォチガウ、カレノ親友ノ中国系アメリカ人、サミー・マートモウシマス」

「サミー・マー?」

「タグッツォサンノ携帯借リテ、電話シテマスデス」

「あの・・」

「ソレデデスネ・・ここから普通に喋るけども、やっぱ行くよ、行きたい。行かなきゃ嘘だこれ!」

「まあ・・サミー!!」

「・・俺の名前の前に、まあ、とかつけるの止めてくれ。」

一寸先は闇。いや、不吉だな。棚から牡丹餅!かくして俺は、突然現れた救いの手、謎の中国系アメリカ人サミー・マーと共に、かつての約束の地、バンコクへと旅立つことになったのだった!

 

 

※なお、彼はタグッツォことT・マサミ君とは一切、全く、人類普遍の原理に則って関係が無いことを人権擁護団体アムネスティの一員としてここに申し添えておきます。