「・・で結局その日は行かなかったんだよ。」

「フーン・・あのパクさんがねえ・・」


タグッツォがバカみたいな相槌をうつ。


「でも、結局翌日行ったんでしょ?」

「まあな、今度は最初から今日みたいにポセイドンって言ったら簡単に着いちまった。ガッハッハ!」


先ほどのカフェで一息つく俺たち。どうやら決戦を前にタグッツォも落ち着いたようだ。

 

「まあ、何だ、今回は何してやるかの?」

「ヘヘ・タカシーノさんはエロですから・・どんなプレイをするんで・・?」

「もーう・・な!?髪の毛掴んでガウンガウンとフェレイティオをさせて・・」

「ガウンガウンですか!?」

「ガウンガウンだ!」

「ウッヒョォォォォォ!!!!!!!俺も!俺もそうするッ!」


はしゃぎまくる俺とタグッツォを尻目に、さっきから朽犬が全く口を開かない。開かないどころかテーブルから目すら上げない。


「おーい?どうした?テンション上げてこーぜ!?性のベルセルクと言われた朽犬さんらしくないじゃんよ!?」

「そうだよ!マンコという大空を目指す現代のライト兄弟と言われたお前と俺が盛り上げて・・」


氷のような朽犬の眼差しで、思わず俺は自分の発言を止めた。


「あのな・・そっちからは見えないと思うけど・・タカシーノの後ろの席・・ヤクザ・・スゴイ・・」


え!?と言う間もなく俺の対面に座っていたタグッツォの顔が見る見る曇る。


「あー・・・・いる・・ねえ・・・スゴイのが・・」


彼らによると、俺の後ろのテーブルに組長クラスのえらくゴツいジャパニーズヤクザが溜まっているらしい。どうか彼らを刺激するような発言は止めろ、朽犬が目で語った。


「日本の外で見るヤクザって・・なんか逆にリアルだよな・・殺しとか・・」

「何の用で・・こんなとこに・・仕事?女か薬か・・」


怖くて全く振り向けない俺。ヴァーチャル杜氏春を味わいながら震える手で何とかビールのグラスを置いた。


「・・でよう・・早く・・」


テンションを上げるつもりが逆効果に、全く今日はとことんまでツイてねえぜ・・。


時計は五時を回ろうとしていた。にもかかわらず日は依然高く時間の経過を感じさせない。


ロビンソンというスーパーマーケットに併設されたカフェを後にした俺たちは、ポセイドンヘの到着を確信し最後のタクシーを捕まえた。


先程の電車の中とは対照的に車内で口をきく者はいなかった。

それぞれがおのおののやり方でコンセントレイションを高めている。去年、興奮のあまり自分の腹やカオをバシバシ殴っていたパクチィも、去年とはうって変わって冷静だ。


美しくも禍々しい、ポセイドンは去年と変わらずそこにあった。


「・・すげえ・・ゴッサムシティかここは・・」

「ここの中で色んな国籍の数え切れないエロス達がタイ女を相手に溜飲を下げてるって訳か・・最低だな・・」

「ああ・・そして俺たちもそのクソ野郎のお仲間入りって訳だ・・」

「クソッ!!クソッ!!」


タグッツォが突然叫ぶ!何かがフラッシュバックしたようだ。


「何でこんな時に母ちゃんの顔が浮かぶんだよ!クソッ!俺・・俺さ・・東京出て来て一人で暮らしてて・・そりゃ立派なことはしてないけど・・でも真面目にだけは生きようって・・こんな・・お前らなんかと知り合って・・挙句タイで風俗デビューって・・俺よう・・クソぅ・・」


青年の主張か、「北の国から」の純を彷彿とさせる童貞クサい自己回顧も一通り済んだところで俺はタグッツォの肩を抱いて言った。


「タグーよ、お前はまだ俺よりも二つも若い。でもな、人生ってのは一分一秒が常に取り返しのつかない事ばかりなんだ。俺たちがこうして出会って、どういう縁か、これからみんなでタイ人のOPPAIを見ることになったのも、ひょっとしたらお前の人生に約束されていたかけがえのない瞬間なのかもしれないぞ?」


「・・うん」


「お母様もきっとお喜びになるさ。ムスコが国際的に活躍するんだから。・・さあ行こう。そのドアを潜り抜けてみんなで一皮むけようじゃないか。早く・・時間が勿体無い」


自動ドアが開くと、このタイ滞在中には見たこともないような豪華なロビーが広がっていた。あっけに取られる俺たちに黒服でしっかりキメたボーイさんが近付いてきた。


「・・荷物はそちらのロッカーにお入れ下さい・・」

「バカか!こんなロッカーに荷物を入れてパクられたら責任とってくれんのかよ!パスポートも入ってんだぞ!」


などと言える筈もなく、そのボーイの威圧的な存在感とこの建物の持つある種の緊張感に気おされ、俺たちは新兵のようにテキパキと荷物をロッカーに詰めた。

ボーイはそれを確認すると、厳かな仕草で二階へと案内した。


高級感漂う間接照明に包まれ、テーブルとソファが並ぶナイトクラブ風のつくりのラウンジ、そしてその奥にマンボウでも飼ってんのかと思うほどの大きなガラス張りのショーケースがある。

その中の雛壇に笑顔で座る沢山の水着美女・・なるほど、インターネットで見たとおりの光景だが実際に目の当たりにするとこうも毒々しいものか。


ボーイの後をついてこわごわとソファに座る俺たち。


「何を飲みますか?」

「はッ!?」


ビックリした。俺の風俗のイメージでは入ったらすぐに女を選んで部屋にシケ込むものだと思っていたからだ。

しかし店のボーイはビールでも飲みながらゆっくり選べという。お言葉に甘えてビールとアイスコーヒーを注文し、俺達は落ち着いてもういちど隈なく女を目で犯した。


写真指名と違って本人たちを前に選ぶのはなんだかとても抵抗があった。女の方もガラスの向こうでヒソヒソとこっちの品定めをしているようだ。

ちなみに相場は大体2000バーツ、左側から右側に行くにつれて値段が高くなり女の質も上がるようだ。

最も選考基準は相応に適当で、2500バーツの上級クラスの中にも何でこいつが?という女が混じっている事もしばしばで

イギリス特殊空挺部隊のヘリからホーキングが飛び出したかのような場違いな違和感を覚えることしきりである。


「乳だな、乳で位が上がる。」


朽犬が呟いた。なるほど、貧乳大国のタイでは顔よりも乳なのか・・。


さて、ここに来て今さらなのだが実際に友人の目の前で女を選ぶというのは結構難しい。いや、恥ずかしい。

自分の好みをモロに見せることになるからな。結構マニアックな顔つきを選んじゃったりすると後々の人間関係までギクシャクしてしまいそうで迂闊な一歩が踏み出せない。

なんだこれ、中学の修学旅行でどの女子が好きかって告白しあうシチュエーションに酷似してるぞ・・。


「ホンチャカマンチョンペーッカ!」


突然パチンコ屋のようなアナウンスが流れ、俺がちょっといいなと思っていた子がとなりのテーブルの白人親父に持っていかれた!クソッ!あの白ブタめが!


こりゃいよいよ難しいぞ、かといってモタモタ迷っているとどんどんいいのがいなくなるかもしれない、その一方でもう少し待てば新しい可愛い子が出勤してくるなり戻ってくるなりするかもしれない・・わからない・・動くべきは今なのか!?


ちらと隣のパクチィの様子を伺うと、来たばかりのアイスコーヒーを緊張のあまり二秒で飲み干して、しかしなお空になったグラスをストローでジュルジュルと吸っている。

パニックの時の仕草だった。


そんな風俗童貞集団の口火を切ったのが「国境の悪魔」と言われる朽犬さんだった。


「おれ、今日は巨乳で行くわ」


余裕すら感じる漢の佇まいに俺は息を呑んだ。朽犬は巨乳好き、と。今後折に触れ思い出すとしよう。すると今度はタグッツォが、

「タカシーノさん、俺、アレもらっていいスか?」


タグーが指差したのは2500バーツの上級クラス、伊藤美咲と加藤あいと企画モノのスカトロ女優を足してミキサーにかけ、スカトロ女優のエッセンスだけ裏ごししたような女だった。

美女狙いか・・こいつ勝負に出やがった!


もうこれ以上ウジウジと悩んではいられない、俺とパクチィはほぼ同時に女を選んだ。はっきりいって特徴もない、しいて挙げればそんなにブスじゃなかった、と言うくらいか。


女の番号をボーイに告げると暫くして、薄いワンピースをまとった女の集団がテーブルに来た、なんかキャッキャキャッキャと騒いでいる。


久しぶりにかいだ女の白粉のむせ返るような芳香・・しかし日本人はモテるのかしら?調子に乗ってニヤニヤと国際的な笑顔を浮かべる俺、しかしどうも話題の中心はタグッツォの被っているニットキャップのことらしい。あなたラッパーなの?とか言われているようだ。


「う・・お・・・イヤァー!!ヒップホップ!!イェー!!」


水俣病患者のような鋭い仕草で反応するタグー。カスでベタなその身のこなしは一目でヒップホップなんぞ見た事も聞いたこともないと分かるはずなのに、なぜか盛り上がる女ども!

このクソ売女!旅の主役は俺のはずなのに!ニットキャップ被ってくりゃあよかった!!!


かくてそれぞれ指名した女に腕を絡められ、エレベーターまでエスコートされるメンバー。するとオッパイに二の腕を押し付けながら俺の女が耳打ちしてきた。


「今日オ客サンイッパイ、三階ノエコノミールームイッパイ、アナタトクベツ船長室」


船長室!?何言ってんだこのアマ?どうせ大した事ねえんだろ・・と思ってくぐったドアの向こうには、蛇輪があり、潜望鏡があり、女に売春させて作った金をよくもまあこんなくだらねえ事につぎ込めるな、と思うほどマジのマジで船長室だった!バカか!


ともあれ、長い道のりの末にやっとガンダーラについたって訳だ・・これから二時間、そのOPPAIは俺だけのものだぜ?


俺は蛇輪を回しながら女が湯を溜めるのを眺めていた・・