ぼやける意識、うっすらと眠りから目覚めるにつれ猛烈に気持ち悪くなってきた。

いや、気持ち悪くて眼が覚めたというほうが正しいだろう。


ベッドから跳ね起きるや否やすぐに便所に駆け込む俺。


  「オッゴォォォォッォォオッオ!!!!カハァッ!!」


「グラップラー刃牙」のジャック・ハンマーがマックシング(薬物大量投与)を起こした時と同じポーズでゲロをはき続ける。

だめだ、足や手の先が痺れてきやがった・・。


頭に浮かぶのは、こりゃもう今日は移動は無理、という事実だけだった。仮にこれが一人旅なら間違いなく今日一日を休養に当てるだろう。


だが、そうはいかなかった。


団体行動という拘束衣を付けられたキチ○イのような状況の上に、往復1万二千円を越える飛行機のチケット、これだけはキャンセルするわけには行かなかった。


フランダースの犬の最終回、パトラッシュを抱くネロと同じポーズで洋式便器をかかえ込む俺の後ろから、バカ丸出しの陽気な声が聞こえた。パクチィだ。


「ヨーシ!おきてっかぁ?出発の準備しようぜ!!」


手前のバカ飲みに付き合ったせいで俺がこんなになっているのに・・なんで平気なんだよお前は!?

そう思うと無性に怒りがこみ上げてくるが、いかんせん体が動かない。

今の俺に出発準備を迫るのは、ホーキング博士にコンビニへ買出しを頼むのと同じラインの無茶さがある。


・・しばらく吐き続け、何とか小康状態を迎えた俺は目の前に散らかった全ての衣類や雑貨をとりあえずリュックにぶち込んだ。

いつでも出発できる状況を作り、あとはひたすら体力の回復を待つしかない。それが今できる精一杯のことだ。


やがてバンが手配してくれたタクシーがAマンション前に迎えに来た。

こうして、思い出のAマンションとも再び別れの時を迎えるというその瞬間ですら、俺はすぐそばの電柱にゲロを吐いていた。あーマジで辛いぞ・・。


コメカミから耳の後ろにかけて氷を這わせたかのような冷たさが走る。手のひらには初めてセックスする高校生のように汗がじっとりとにじんでいた。


空港に着き、一同食堂でメシでも食おうか?と気持ちが悪い俺をそっちのけの提案している。クソ!みんな死んでしまえばいいのに!


ロビーのソファーに腰をかけてうなだれていると、一つの考えが浮かんだ。

そうだ、コーラとか飲んだらどうだろう?炭酸飲めば少しはすっきりするんじゃないかしら?


そう思うが早いか、みやげ物コーナーをヨロヨロと歩き回り冷えたコーラを探す。

何とか見つけた売店にはコーラと、得体の知れないパッションフルーツポンチといった飲み物があった。 


・・好奇心は罪なのか?ついつい見たこともないジュースという魅力に負けてパッションフルーツポンチを買ってしまう俺。

果たしてそれは期待を裏切らぬマズさであった。駄菓子屋の粉ジュースを座頭市にでもつくらせたらこんな味になるのかもしれない。


体の不調の上に心まで折られ、いよいよ飛行機への搭乗が危ぶまれたが、恐るべきは人の体。起床からかれこれ4時間も立つとなんとか少しラクになってきた。


最後の気力を振り絞って搭乗手続きを済まし、いち早く機内に乗り込む。

サービスのフルーツを平らげてやっと人心地つくと、ようやっと安堵の眠りが訪れた。


そしてお昼前のいい時間に、俺たちは再びバンコクに戻ってきた。

旅の行程もほぼ消化し、残すはあと今日を含め2日。そう思うとウソのように体に力がみなぎってきた。


もはやバスを待つというまどろっこしいことはしてられない。さっさとタクシーを捕まえてカオサンへ向かう。

宿を探すのもかったるいのでホモ騒動で散々イヤな目にあったが、再びKSゲストハウスにチェックインをきめる。


「ねえ!!ねえッ!!大丈夫なの!?ホントに大丈夫なのッ!!!!」


フロントでタグッツォがベトナム帰還兵のようにパニックを起こした。ムリもない。

レイプされた被害者を再び現場に連れて行って「告発の行方」のジョディー・フォスターのマネをさせるようなモンだ。しかし時間がねえのよ、もう俺たちにはさ。


「大丈夫!もうあのオカマはチェックアウトしたって!」


「ホント?ホントにホントなの?」


「ああ、ホントにホントだ!なあに、もしもそんな悪い奴が来たらパパがやっつけてやるさ!」


「わあ!うれしい!!守ってね!!約束よ!!」


定番のホモゴッコもつつがなく終わり、射精した後のようなドライな顔つきでおのおのの部屋に引っ込むメンバー。

ひとしきりの支度を終え、再びフロントに集合することに。


やがて全員が集まると、通りでタクシーを止める。

そう、今日はオバちゃんのうちではなく、バンコクの原宿とも言うべき「街」へわざわざ出向いてディナーを取ることにしていたのだ。