十分に時間を潰したかいがあった。掃除はもう終わっていたようだ。


パクチィはひび割れたコンクリのフロアーに座り込み、取り出したタバコの中身を抜いて一心不乱にボブ大好き草を詰め込んでいる。

その様はまるで、俺がインドで見たナン焼き職人だった。

生まれてからずっとナンを焼いてきたのであろうそのおじいさんは、腰はもう曲がりきってしまい、立つ事すら出来なかったが、その眼は誇り貴く、ある種の気品すら漂っていた。今のパクがそれだ。草詰め職人。


俺はちぎってほぐしたボブ好き草をなんともなく手で揉んでみた。・・すげえベットベトだ!樹脂出まくりじゃないのさ!!こりゃあ日本の枯れ草みたいな奴とは物が違うぞ・・。


 「ウッヒー!!こりゃあこりゃあ・・・おじさんバカになっちゃうよぉぉぉ?」


陽気におどける俺を尻目に、やたらシリアスなパク。なんだよ・・興ざめな奴。


 「お前さ、やるの?」


パクチィが呟いた。質問の意図が分からないまま俺は思わず言葉を返せずにいた。


 「掃除は手伝わねえし、今更ノコノコおいしいとこ取りしようって腹なんだろうけど、お前にやる権利があるのかよ」


これには震えた。なんと言う・・なんと言う器の小ささ!

こいつは買った草を分けるのが惜しくて、パクチィ固有アビリティの「難クセ」をつけ始めたのだ!!しかも俺一人狙いでタグッツォとテケレツは分ける気でいやがる!!


 「権利っておまえ・・マジでいってんの?パーティーだぜ?ここでもったいぶって何がしてえんだよ?」

 「まあ、別に分けてやらないこともないけど・・」


その代わり俺のチンコをしゃぶりながら、流れ星・銀牙の真似をしろこの犬以下野郎!

とでも言いたげな高圧的態度で、俺の前にジョイントを差し出した。クソッ!いつか殺す!! 


「蝿の王」という映画がある。「15少年漂流記」+「バトルロワイヤル」のような話だ。

チーム内でサバイバル能力の高い奴が手に入れた動物の肉をちらつかせて権力を広げていき

狩りを好まぬ平和主義者を追い詰めていくような話だったと思う。その絶対権力性!

まさに今のパク!


王権草授説に基づく絶対王政をひきはじめたパクチィは、当然の権利としてファースト・ショットをぶちかました。

甘い、インセンスのような草の燃える匂い。

吸う度に弾ける実のパチパチとした音。立ち上る煙が廃墟と化したビッグホープへ消えていく。


初めて吸うテケレツはそれこそ童貞が初めて見たオッパイにむしゃぶりつくかのようにチューチュー吸い込んでいたが

いかんせん肺で煙を止めないもんだから、いつまでも効き目が現れないとゴネていた。


タバコに比べ、遥かに喉の通りがいい。スーッっと吸い込んで、もったいないから限界まで息を止める。

途中、体をゆすって肺全体に行き通るようにするこのぬかりのなさ。

ここまでするのも、ひとえに俺がタイ産のボブ好き草の効力を甘くみていたからだ。


俺に関していえば、日本で手に入る物のほとんどが粗悪品だった。

結構吸っても「あーちょっと酔っ払ったかなー?」程度の効果しか得られないものが多く

キノコなんかが与えてくれる圧倒的な高揚感、スペクタクル、映像美、俺たちはこれを「エアロ・ダイナミクス」と名付け呼んでいたが

そうしたあからさまな衝撃がボブ好き草にはほとんどなかったように記憶している。


だから当然のように自分の中には、その拙い経験則から「ボブ草は沢山吸わなければ面白く無い」という偏見が出来上がっていた。しかし!


・・異変に気付いたのはジョイントが6回目に回ってきた時だった。


さっきから痺れている俺の左手は、これは左手に体重を掛けてるからじゃない・・のか?


瞬間。おぞぞぞおぞぞぞぞぞおおぞぞと体の中を水龍が駆け抜けた!!


肝臓から胃に上がり、肩甲骨を経由してこめかみにたどり着く水龍。かなりの暴れん坊です。

 

自分の体の予想以上の変化に俺は正直ビビッた!なんだコレ!キノコやないの効き方が!!


荒れ狂う龍は二匹になった。周りを見渡そうと顔を上げようとするが、ダメだ。遅え。

周りの空気が重くなったのか、アドレナリンが出まくってるのか、首をちょっと上げるのに1分くらいかかる。

体感時間でいえば3分はかかってる!マトリックスみたいな時間の流れ!


どうやらみんなも効き始めたらしく、効き目の薄いテケ以外は完全にストーンドしていて誰も口を開かない。と、思ったらタグッツォがタバコを探して言った。


 「・・・タバコ・・・ある?」

 「ん。ある。」

必死で答える俺。

 「・・とって」

 「・・ん」


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〜十分経過〜


 「そうだ・・・タバコ・・ある?」

 「ん。ある。あ、そっか。」

 「とって」

 「ん」


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  〜十五分経過〜


 「なんだっけ・・あ・・タバ・・コ」

 「ん」

 「・・とっ・・て」

 「・・何を?」

「・・・・・・虫の声・・すごいウーハーかかってる。」

 「ん」

 「ほーほー・・ふむふむ・・ええすいません。タグッツォです。」

 「・・君は虫国鳥派?」

 「・・え?」

 「俺は・・虫もいいけど・・鳥派・・」

 「うん・・鳥派・・虫国鳥派・・だ・・俺も」

 

 ピチューゥゥゥウッウッウッ ヂュイヂュイヂュイヂュイィィィィ・・サイコーだ。


 「俺たち・・空国星派です・・・」


パクと朽犬が仰々しい態度で挨拶に来た。俺たちにとってはもはや国家間の文化的交流のつもりだった。


 「・・・星だって?」


夕暮れは、まだなおその光を残しつつも、空には薄く星空が輝き始めた。紫の空に星。

鳥と虫の声。波の音・・・


ぼくわ  しぬ   のか?