何で旅行だと朝起きられるんだろう?やっぱり仕事と違って楽しいことが待ってるからだろうか。

 

結局昨日はあれからなんだかんだパブで酒飲んだり、近所の寺を散歩したりして遅寝になってしまったが

ともあれ今朝は、チェックアウトまでにはメンバー全員がロビーに集合しているという快挙を成し遂げた。

後は、昨日パクチィが手配してくれたタクシーが迎えに来るのを待つだけだ。

 

しかし10:30のフェリーに間に合うように、9:30前には迎えに来てくれるとの事だが・・一向に姿が見えない。どーなってんだ?

 

じれる俺たちを尻目に時間は刻々と過ぎる。これはさすがにおかしいだろ!!と叫ぶ5秒前、10:20分ごろにホイルスピン気味のピックアップトラックがAマンション前に到着した!

 

「ハァリィィィィアァァァッッッップゥゥ!!!!!!」

 

遅れてきておいて急げとは何事か!と激しそうになったが、スダレ禿げも整えずに来た落ち武者のようなドライバーのオッサンの形相は有無を言わさぬ迫力があった。

 

ピックアップに荷物を積み、すぐにフェリー乗り場に向けて出発する。アクセルベた踏みのオッサンはツバをバンバン飛び散らしながら、さっきから携帯で何かをまくし立てている。

 

「クソったれ!!!!昨日メコンウイスキー飲み過ぎて全く目が覚めなかったぜ!!今からこのゴミどもをそっちまで運ぶから、もう少しフェリー出すの待っててくれ!!」

 

ヒットラーの演説のようなその勢いから、会話の中身はなんとなく想像できた。

合間合間に心配いらん、と言った表情の笑顔を向けてくるので俺もつられて笑うと、なぜか大爆笑が湧き上がる。

単にクスリでもキめてるだけなのか!?

 

それでも出発時刻ギリギリに何とか船着場についた。重い荷物を抱えるように走り、全員無事にデッキに乗り込む。これで一安心だ。

 

車に乗っていたときはまだ出るな、もう少し待っててくれ!と祈るような気持ちでいたが、この炎天下のデッキは予想以上に暑く、座ってるだけで汗が噴き出しめまいがする。クソッ!早く出せこのポコチン野郎!

 

しかし予定時刻から30分以上過ぎても一向に出発の気配を見せないフェリー。

と、そこに遅れてきてなお悠々と桟橋を歩いてくる白人ファミリーが目に入った。まさかあいつらを待っていたんじゃなかろうな!!!

 

ふと右側から瘴気を感じて振り向くと、クリリンを殺されたときの悟空の表情でパクチィが呟いた。 

 

「・・いっそ民族ごと粛清してやろうか・・のんきに歩きやがって・・」

 

パクよ・・お前の爺さん戦争で殺されたりでもしたのか?尋常じゃないぞその白ちゃんへの憎しみは・・。

 

ともあれ、予定よりも1時間半ほど遅れてフェリーはクラビーを出た。暫くするとマングローブだらけの景色も変わり、小さな島々が目に入ってくる。

 

 「ごらん、あの奇抜な形の島が俗称チキン・アイランドさ。あそこが首で・・」

 「・・ふうん・・」

 

せっかくの説明をマン屁のような返事で返し、全く冷えていない買い置きのチャンビアをメキシコのストリートチルドレンのような虚ろな眼差しで回しのみをしているメンバー。

仕方ない、ここのデッキはマジで死ぬほど暑いのだ。おまけ移動に次ぐ移動で皆の体力もそろそろ限界に達しようとしていた。

 

そしてその限界に一足先に達し、昨日から体調がすぐれないと訴えていた八雲がデッキをおりて船内のシートに横たわった。

直射日光で無い分少しでも体が冷やせるだろう。本当に辛そうなので俺も付き添って後ろの席に腰をかけることにする。

 

五十席程度の船内にはあまり人がおらず、まばらに埋まっているシートには胡散臭そうなタイ人の男が座っていた。

彼らはこれから停泊していく島の宿泊地(バンガロー)の斡旋を生業としている、よく言えば営業、見たまんま言えばヤク中のポン引きである。

 

案の定、胸ポケットからボブ・マーリー大好物の気持ちよくなれる草(以後ボブ好き草)をつめたタバコを取り出すと

やおら火をつけて思い切り吸い込み始めた。船の中には仲間とボンクラ観光客だけ、ポリスの気配なんぞ毛の先ほども感じない

そんな劇空間で心ゆくまで潮風と太陽を一杯に浴びて、小窓からこぼれる冷たい波しぶきとエンジンの心地よい振動に身を任せ

静かにインナースペースに旅立つポン引き。・・ウラヤマしいいい!!!

 

ボンッ!!と急に荒々しく肩を叩かれた。パクチィだ。

 

「・・・買うわ・・いいね・・」

「買うわ・・って・・・・ボブ好き草!?」

 

うなずく代わりに目で語るパクチィ。ちなみにどんな目だったかというとへミングウェイ原作の「誰が為に鐘は鳴る」で

明朝敵軍の橋を爆破しに行く任務を負った主人公ロベルトが、恋人マリアと別れを惜しむ際「どうしても行かなくちゃいけないの?」と尋ねられたときのその目に近いと思われる。ワイセツに決意が固そうだ。

 

 「俺は・・どうしたもんだろう?」

 

ボブ好き草は当然タイでも、ダメ!ゼッタイ!な物である。これを破ると最近賄賂が効かなくなったと地元では評判

ツーリストには惜しまれているタイポリスがワラワラとやってきて、ろくな裁判もせずに刑務所に放り込まれるというが・・。

ちなみにタイの刑務所はお国柄、いろんな国のヒッピーやヤク中が入っていて、その数なんと数十カ国に及ぶ。

だからシーズンになるとワールドカップ・イン・タイの刑務所が行われるとか何とか・・ずいぶん楽しそうですね。

 

話がそれた。つまり、一人の暴走がこの旅すべてを台無しにする可能性もあるのだ。

特に八雲はそれ系の物が、やってる奴も含めて大っ嫌いという硬派である。俺も別に無くて良いと思うし、余計なトラブルはごめんだし・・。

 

 「・・何迷ってんだ?いいのかよ?こおおおおおんんなにあって一人300バーツだぜ!?」

「!!!なにボーッと突っ立ってんだ!!!売り切れる前に早く買いに行けこのマンコ面!!」

 

背中を叩いて思わず送り出す俺。ネゴシエートの場につくパクチィ。人見知りのクセに自分の大好きなことに関してはつくづく行動力がある。

バンドでもそんなとこ見せてくれってんだよ・・。

 

浅黒い(当たり前か)長渕剛みたいなバイヤーの横に腰をかけてなにやら話すパク。ここからは音声抜きでお楽しみ下さい。

 

 笑顔の練習中の寄生獣みたいな精一杯のスマイルのパク。

 いっぱしのビジネスマン気取りのポン引きが指を何本か立てる。値段?

 信長と話す秀吉のように笑顔にさらに卑屈さを加え、ポン引きの立てた指をそっと一本優しく掴んでたたませるパク。まけろってことらしい・・。

 どうやら折り合いがついたらしくホモらしい力強い握手を交わし、映画で見たとおりにすばやく懐にブツを滑り込ませるパク!よくやった!

 

「すげえじゃん!勇気あるねー、君って男を見直したよ!」

「フン!貴様は何もしなかったがな・・」

 

一縷の不安が頭を過った。何だこの違和感。あのディーリングを経て、一皮むけたパクチィがなんだか急に高圧的に感じた。

気のせいか?奴はちょっと興奮してるだけか?

 

心配をよそに、フェリーはもうすぐジャムに着くという。彼方から客の送迎のため、島にあるバンガローのボートが何艘もフェリー目指をしてやってくる。その様はまるで海賊に襲撃されているようだ。

 

 「おおおおおおお!!!!!!き!き!!キアムだぁぁぁ!!!」

 

朽犬が叫んだ。俺とパクチィも思わずどこっ!?と乗り出して彼の姿を探す。

 

「間違いねえ!!キアムだ!!!」

 

小さなエンジンつきボートを器用に操り、フェリーに横づけするその姿を見て俺たちは確信した。ここは、この島は無事だ!と

 

キアムさんというのは前回俺たちが泊まった「ニューバンガロー」のお抱えの船頭さんだ。一緒にボートに乗ったり、セパタクローを教えてもらったりと、思い出も少なくない。

そんな彼が健在なら、それはニューバンガローも健在ということ、ひいてはジャム島も健在ということだ!!

荷物を乱暴に掴み、たまらず俺たちはキアムのボートへ駆け込んだ!

 

「キアーム!キアーム!!リメンバーミー?」

 

涙ぐむ俺とパクチィに柔らかな微笑みを返すキアム。

飲み会で一回あっただけの奴 に、後日親しげに話しかけられたときに出るあの笑顔。

キアム・・お前、覚えてねえだろ・・。

 

遮るものなど何一つない突き抜けた空。澄み切った海に足を浸してボートから降りる と小魚の群がスッと逃げてゆく。

間違いない。ここが楽園でなくてなんだというのだ。果てしなく続いてゆく砂浜には人影がほとんど見えない。

津波の影響も勿論あるが、ここが秘島である所以であろう。

被害の程が気になるビーチも、前回に比べ多少枯れ木などのゴミが増えてはいたが、実際に影響はないように見えた。

何より、ハックルベリーの隠れ家の様な木の上の小屋も無事に残っている!

 

 俺たちは走り出したくなる気持ちを抑えて、ゆっくりとニューバンガローのレセプションへ向かった。・・・あれ?カフェのテーブルが減ってる?

 

 「おい、テーブル減ってねえか?」

「・・まだランチタイムじゃないんだろ・・不吉なこというな」

 

するとそこに、スタッフの中でもっとも交流のあるオバちゃん(カオサンの食堂と差別化を図るべく、以後あえてママと呼ぶことにする。)がやってきた!

 

 「オー!!ウェルカム!!ユーガイズ!!!」

「おおおお!!覚えているか!!!俺だよ!!去年ビーチバレーやった時、思いっきりバレーボール蹴っ飛ばしてケツが割れるほど怒られたタカシーノフさ!」

 「・・ヤー・・アイ、リメンバーユー・・」

 

・・積もる思い出話もあるが、とりあえずは荷物を置くべくそれぞれの部屋を割り当ててもらう。

贅沢にも一人一バンガローで一泊300円程度だ。

 

内装は、シャワー(無論水しか出ない)とトイレ(手桶で流す)、天井のファンと蚊帳つきのベッドが一つという質素な造りである。

誤解を恐れずにいうなれば、でかい便所にベットを置いたような環境だが、それなりに快適ではある。

 

荷物を置くや否や、すぐに水着に着替える俺たち。日焼け止めを塗りたくっていると、物凄いシルエットの人間が遠くから歩いてきた。

 

テケレツだ。

 

イアン・ソープばりのぴっちりとしたスパッツタイプの海パンをなまっ白い体に合わせて練り歩くその様はまさにキチ外まるだしだった。

 

 「おいおい・・オイシイなあお前のそのカッコ・・。」

 「スポーツショップにいったらこれしかなかったんだ。」

 「だからスポーツタイプなのかよ!?普通はデパートとか服屋で買うんじゃねえの!?」

 

グレコローマンスタイルのレスリングをこよなく愛する引きこもりのコスプレ野郎、そんな印象を強く受けるがこれ以上こだわっても仕方あるまい。

ま、俺ならフルチンで泳いだほうがまだマシだがね。

 

焼けた砂をけって一気に水に飛び込む。 

 

東京ドーム百万個の海。・・自分には形容の才能が足りないのか、それともこの海をたとえることなど出来ないのだろうか。

とにかく広く、高く、海がどこまでも俺たちを包む。白い砂浜の細かな砂の粒子と貝殻が、水の上からも確認できるほどの透明度を誇り

浜辺ではシオマネキが右往左往する姿がいたるところに眺められる。

耳を澄ますと南国の虫や鳥の声、そしてたまに吹く涼やかな風がより一層夢見心地にさせる。アンダマンの海に浮かびながら、一生に二度とはないであろう最高の瞬間を感じていた。

 

かくて、俺たちは約束の地ジャム島にたどり着いた。