2月11日

朝六時ジャスト。表の鶏よりも少し遅い目覚めを迎えた。

体を伸ばして同室の朽犬とテケレツを起こしていると、下の階から八雲が起こしに来てくれた。

 

 「あ、起きてたんだ?心配で起こしに来たんだよ。」

「そりゃ親切に有難う。でもここでの俺を日本の俺とは思わないで下さい。かつての一人旅で身についてるんですよ、頼れるのは自分のみってね。だから当然一人でも起きますよ。」

「ご高説は結構だけども、頼れるのは自分のみのタカシノフさんは今回時計を持ってきてないよね・・パッキングするから貸した目覚まし返してくんない?」

「・・助かりました。ほんとに。」

 

俺は昨晩のうちにパッキングを済ませてあるので、軽くシャワーを浴びて一足先にロビー荷物を出した。男娼の宿ともお別れだ。

 

七時ちょっとにチェックアウトして、メンバー一同で空港を目指す。しっかし、こういうときに限ってタクシーがこねえなあ。

 

待つこと10分近く、やっと一台のタクシーが止まる。

いかなタイといえどもさすがに6人いっぺんに乗ることは出来ないので、なんとなくメンバーを分ける。

 

先発隊に俺、タグッツォ、テケレツの三人。次のタクシーでパクチィ、朽犬、八雲が来ることになった。

テケ&タグ・・なんだか十字架を背負わされたような気分だったが、ベテランの俺を信じてのことだろう。

これはミッションだ。俺は確実にこいつらと俺自身を空港に連れて行き、そして仲間みんなで島に行かなければならないんだ。

 

パクチィが待ち合わせの場所を聞いてきたので、俺は万が一のために初めて来た奴らにもわかる所、

最初にタイに来たときの到着ゲート、その前にあるインフォメーションの前を指定した。 

 

 「じゃあ先に行くぜ!鈍ガメ!」

 「あばよ!ポコチンども!!」

 

クーラーの効いた車内に体を滑り込ませ、軽口を叩いて別れを告げる。

これで空港には余裕で間に合うなと一息ついて横に目をやると、寝ぼけ眼のタグッツォと、

ボンクラ面で真ん中に座るテケレツがいるので、なんとなく俺は二人に尋ねてみた。

 

 「テケさんはバンコクと島どっちが好きだい?」

 「・・まあ何でもいいよ。」 

 「・・タグッツォは?」

 「行った事ねえからワカンねえ、ねみい。」

 

会話のキャッチボールを完全に捕球拒否の形で終わらされ、そのまま暫く沈黙が続いた。

 

妊婦の便秘の様なバンコクの渋滞も、朝はやはりそこまで酷くないらしく、早々にハイウェイを抜けるとドン・ムアン空港の看板が見えてきた。

 

ここで俺は思いもよらない質問を浴びせかけられた!!

 

 「サー、ターミナルは1と2どっちに向かうんだい?」

 「はあっ?空港ってそこだろ?」

 

質問の意図がつかめず素っ頓狂な声で返事をする俺に、タクシー運ちゃんはバカを相手にする時の言い方でもう一度尋ねた。

 

 「ですから、海外行きのターミナル1か、国内線のターミナル2かって聞いてるんですよ!?」

 

一瞬で俺の顔に驚愕と絶望の表情が浮かんだ。自慢の雷がゴム人間には効きませんでした。そんな時同じ表情が浮かぶかもしれない。

 

 「ダンナたちはクラビーに行くって言ってたから、たぶんターミナル・・」

 「分かってる。言うなそれ以上は。」

 

分かってるんだ。俺たちが今まさに到着しようとしている場所。

待ち合わせのインフォーションセンター前、それはまさに海外用の玄関。ターミナル1なのだ。

 

なんせ生まれてこの方、タイの国内便なんてとてもじゃないけど金がもったいなくて一度も乗ったことが無かったものだから、空港=ターミナル1だと信じきっていたのだ。

 

ターミナル2って・・どこだ?

 

 「おいどうなってるんだ」

商談をすっぽかされた重役のようにテケレツが不満そうに尋ねる。俺が聞きてえよ。

 

 「と、とりあえず待ち合わせ場所にいこう。インフォーメーション前って言ったんだから取りあえずはみんな来るだろ、それで一旦集まってからターミナル2へ行けばいい」

 

これ以上ない名案。いや、これ以上できることなど今の俺らに在るだろうか?俺は極力ネガディブな事を考えないように努めた。

そのすぐ後ろでタグッツォとテケレツが早くも、もう奴等に会えない気がする云々と騒いでいる。うるせえ!!

 

とは言うものの、実際はそこまで心配していなかった。前日ロクな打ち合わせをしなかった結果、

ターミナルを間違えるという事態を招いてしまったものの、タクシーに乗る前にきちんと待ち合わせ場所を決めたし、

言ってもパクチィは二度目、俺や朽犬はもう何度もこのターミナル1をくぐり抜けている。

よってどこら辺に何があるか、人はどこに集まるかなどは頭にバッチリ入っているのだ。

ここに来る限り、よもや出会えないということは無いだろう。 

 

俺たちは重い荷物をカートに積んで、到着の際横目に通り過ぎたインフォーメーションの前へと移動した。

ここまでは予定調和だ。時間はまだ七時半前、一時間前の搭乗手続きを計算に入れても十分に間に合う。

 

島に行くのを渋ってた俺の願いが、こんな形で叶いかけるとはね。神様、冒険に来たんじゃ無いんだからもうトラブルとかいらないんスよ・・マジで。