宿に帰ると誰もいなかった、どうやら俺、タグッツォ、八雲で散歩をしているうちに

待ちくたびれたパクチィ、朽犬、テケレツはどこかに行ってしまった様だ。

 

都市派と島派?早くもグループ破綻の予感を感じつつも、アルコールが少し入った体を休ませるべく、三人おのおのベッドに横になる。

 

暫くしてパクチィたちが帰ってきた。昨日のおばちゃんの家にメシを喰いに行ってきたらしい。

みんなで食おうといいながら先に行くなんて、と口を滑らせると

 

「ふざけんな!何が15分だよ!バカ!!どんだけ待ったと思ってんだ!!」

 

と逆に怒られたので、ふてくされてまた横になった。

 

飯も食ったし酒も飲んだ、メンバー一同で部屋に溜まっているものの、充足感からみんなほとんど会話がない。

しかしそんな生温い空気を再び一つの音がかき消した。

 

 シャッ!!

 

たった一度聞いただけなのにもう耳慣れたあの音!!

べトコンで一杯のトーチカへグレネードを投げ込むが如く、再びオカマから紙切れが挟み込まれたのだ!

 

 「なんだコレ?」

 

そうだ、パクチィとテケレツはまだ知らないのか!

 

振り返ると酒で弱ったタグッツォが吐き気をもよおして「ウェー!!ウッエェェ!!」と呻いている。

この即効性!つのだじろうの「恐怖新聞」を超えている!!

 

 内容は性懲りもなく

 

 「電話して、マイフレンド!ヨー」

 

と書いてあるのみ。ためしにさっき引っこ抜いた電話線をもう一度差し込むと、三分と待たずに電話が鳴った!

 

このままここにいると、俺たちまで巻き込まれる。そんな気がしてやまないのでメンバー総出で再度カオサンを目指す。

気晴らしにタイマッサージを受けようということになった。

 

何でも安いタイはマッサージも安い。一時間全身をくまなく揉みほだされてほんの600円程度。

それから比べりゃ「テモミン」なんて、ダイアナ妃にでも揉ませてんのかっていうくらい高い料金だ。

 

マッサージ屋の入り口は、どこぞの遊郭のように女が大勢手招きをしていた。全部ババァだけどね。

 

ところがいざ入る段になって、テケレツが「おなか痛い、もダメだ」とガキの様に悶絶し始めた。

 

トイレはどこだとしきりに訴えるテケレツを「人型をしたお荷物」、そんな冷ややかな目つきで眺める一同。

しかしそこは思いやりの人。心のリーダーパクチィが一緒にトイレを探し始めた。

 

 「おーい!先に入ってるぜ?」

 

遠くなる背中に呼びかけると、いいよ、と確かにいった気がする。確かに・・。

 

入り口で足を洗って、よれよれの短パンに着替えさせられる。何故か無駄に暗い部屋に通されて一同横たわる。程なくして、ババアが俺の体を揉みに来た。

 

不思議なもので、足先から丁寧に揉まれているとババアがだんだん・・何というか可愛く見えてくるのだ。

 

 「サバーイ?(気持ちいい?)」

 「ああ、気持ちいいよ・・サバーイだ」

 

悪戯っぽく微笑んで尋ねてくるババア。少年のように照れ笑う俺。何だこのココロの甘酸っぱさ・・。俺・・どうかしちまったのか?

 

 「・・オイ!さっきからうるせえよ!」

 

タグッツォが呼びかけてくる

 

 「キモチイイ?・・キモチイイって言うのを横で聞くたびに、なんかお前がババアとセックスしてるみてえで気持ち悪りいんだよ!!」

 「・・・そりゃ悪かったな・・」

 

以後サバーイ合戦は謹んで静かに揉まれる事にした。

 

 「あ、そういえば、パクとテケはもう入ったのかな?」

 「さあ、ここにいないって事はひょっとして二階の部屋にいったんじゃね?」

 「あいつら、俺らが一時間コースってしってんのかな。時間ずれたら待つの面倒くさいな。」

 「・・どうでもいいよ」

 

日本での激務のせいで、体が風邪気味のタグッツォはそれ以上の会話は望まない、といっった雰囲気で俺の言葉を遮った。

無理もない。オマケにあのオカマ騒動じゃね・・。

 

 かくて一時間のマッサーを終えて俺達は店を後にする。途中、やっぱり二階に回されていたパク&テケを見つけて、外で待つ旨を伝える。その際、

 

 「何で先に入るんだよ!馬鹿!」

 

というお叱りをまたも頂いた。うーん、団体行動って難しいのね。

 

 夕飯こそはみんなで揃ってと、またも宿の裏の川を渡りおばちゃんちの方角へ。

 

ヘドロ、成分はそれだけといったキツイ匂いが鼻につくこの川。

千と千尋の神隠しで、千尋に自転車ぶっこ抜かれたあの汚い川の神様、そいつの現身ではないかと思うほどだ。

あっちの川べりには自転車どころか何故かバスタブまで沈んでるし。

 

その川を渡ってすぐのところ、今日は別の店で食うことに。

タイスキを頼んだが、固形燃料の炎がすぐそばの扇風機の風(強)に流されて全く鍋が温まらない。何だコレ。

ウェイターのイカれたジジイに何とかしろ、と言うと、新しい固形燃料を一つ持ってきてくれた。そうじゃネエよ!!

 

 結局問題の根本と向き合ってもらえぬまま、生温い鍋を食って宿に帰る。

 

明日の朝は早い。十時の飛行機だから、支度を入れたら六時起き位だな。

みんな宿に帰ってパッキングして寝るという。正しい意見だよ。でも、あー!!修学旅行みたいでウゼェ!

 

結局早めに切り上げて宿に帰る。明日のことは取り合えず空港まで行って決めることにして、酒で眠くなった体を休める。

しかし・・ああ・・大事なことって本当に前もって決めておかなくちゃいけないんだな・・しかもシラフで!

 

後で嫌というほどそれを思い知らされる事になるのだが、このときの俺たちはまだそれに気付いていなかった。