二月十日

 

昨晩の狂気の大宴会にもかかわらず、目覚めは良かった。

それでも他のメンバーに比べると随分寝坊したようで、朽犬などは早くも朝のカオサンを散歩してきたという。

 

服を着替えて、再度メンバーでカオサン通りを目指す。三十度を越える熱気が体を包み、すぐに汗があふれ出す。

しかし、あの出発前のクソ寒い日本を思えばそれすら幸せだ。ここは南国、暑くっていいんだ。

 

そしてこの灼熱の空気の中さらなる暑い場所を目指し、今日俺たちは到着二日目にもかかわらず、早くも南の島行きのチケットを取りに行くのだ。

 

昨年、俺、朽犬、パクチィで旅行に来たときも、南の島へ行こうというプランは最初からあった。島へは、まずバンコクからクラビーという南の果てまで行かなければならない。

 

知ってる人は知っていると思うが、そこは映画「ザ・ビーチ」の舞台になった街であり、映画の影響による経済効果は計り知れなかったとか。

 

しかし押し寄せる白人を見てはしゃぐバカなタイ人の大喜びも束の間。

ポップに原爆とか落としちゃう節操の無い白ちゃんのせいでゴミが溢れたり、

映画のセットのためにマングローブをメッタ切りにされたりしたので、手のひらを返してタイ人は怒った!

が、それまでの特需でミルフィーユのように積み重なったドル札やバーツを見て、やっぱりその矛先を収めたとか何とか。

 

で、そのクラビーという街から色々なビーチへいけるのだ。

挙げても分かるわけないと思うが近場なら小船でいけるアオナン、ライレイ、プラナン、

島ならばフェリーでピピ島、ランタ島、そして前回同様今回の目的地でもあるジャム島などがある。

 

問題はそのクラビーへ何で行くかということだ。

 

バスで十五時間、夜行列車でも十四時間、飛行機なら一時間だがほかの二つのチケット代が千円前後なのに比べ

往復一万五千円くらいかかりやがる!!タイに来てまでそんな大金出せるかってんだ!!

 

というわけで前回は時間もあったし結局バスで行った。途中エンストしたりして到着に二十時間ぐらいかかり、大変ユーモア溢れる行程と相成りました。

 

で、何に懲りたのかは分からないがとにかく今回は時間がないので飛行機、というのがパクチィの熱い要望だった。

それもダラダラすると先延ばしになるので、「必ず」到着してすぐに買う、という決意のもとでだ。

 

俺としてはもっとゆとりある旅がしたかったし、飛行機は高いしで、電車やバスで行く気になるまで何とか先延ばしにしようとしたが

「ごんぎつね」で病床の母がうなぎを求めるがごとく、

 

「ああチケット・・チケットが欲しいよう・・チケットチケットチケットチケット」

 

と、大変うるさいので仕方なくこんな二日目の朝っぱらから旅行代理店へ足を運ぶ次第となった。

 

カオサン通りの真ん中らへんに「バイヨン」というアンコールワットの同名の遺跡をかたどった建物がある。(難民掲示板で左側にある、エビニンジャが作ったアイコンがそれだ)

 

その一階のテナントに「MPツアー」という日本人経営の大変親切な旅行代理店がある。(無論日本語での会話がOK)

 

薄ら暗い明かりと、バイオハザードを彷彿とさせる動いていないエスカレーター

この良心的な店がなかったらこんな薄気味悪いとこあんまり来ねえだろうな、とつくづく思う。

 

タイという地形効果で行動力が150%に上がっている朽犬とパクチィが早くも情報収集を始めた。

今回は特に、津波被害のあった地域でもあるので状況は詳細に知っておかなければならない。

せっかく行ったのに、地上に浮かんだムー大陸みたいになっていたら脱力しちゃうからね。

 

「何だって?」

「うん大丈夫だって。」

「大丈夫って何が?」

「なんか・・ダイバーの人がその辺りで泳いだけど・・大丈夫・・だったって・・」

「そりゃおい!海の中の話だろうが!街は?バンガローは?泊まるとこはあんのかよ?」

 

大丈夫なんだろ・・といい再びチケットの話をするパクの字。行きたい気持ちだけが前に出てっているようだ・・。

 

スタッフのタイ人女性が飛行機の予約状況を確認し始める。提案されたチケットは行きは二月十一日、帰りは二月十七日のものしかないらしい。

日本に帰るのが十八日の深夜なので、もう少し早くバンコクに帰って来たいのだが

この時期は中国系タイ人の旧正月らしく、生意気に飛行機が予約で一杯だと!!ナマイキッ!!キーッ!!

 

料金は実に4000バーツ強!一万二千円を遥かに越えてやがる!!

 

「・・ハハッ?マジでこれに乗るってか?俺だけバスで行こうかしら!!!」

 

吐き捨てる俺を、「ゆきゆきて、神軍」で戦犯を問い詰める奥崎謙三氏のような眼で睨むパクチィ。

 

 「分かったよ!!そのかわり金を払うとき、俺を思いっきり殴ってくれ!」

 「・・なぜ?」

 「殴られた痛みで、金を払うことから目をそむけるから、頼む!!」

 「・・お前な、もう死んじゃえよ・・」

 

かくてチケットを手にして、俺たちはMPツアーを後にした。

 

時間は金で買える。しかし金を時間で買うことは難しい。働かなくちゃね・・。

こんな思いをしていくのだから、どうか島よ、美しいままであってくれ・・。